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執筆者の写真Roca Misaki

「摩天楼に降る涙」というイベント(3)

 少し間があいてしまったけど、摩天楼イベントについての想いの続き。いよいよストーリーについて。当然のごとくネタバレ全開で話していますのでご注意ください。


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 摩天楼の王子ストーリーでとにかく印象に残ったのは、これまで(特に最初の限定である『新たなる薄明の刻』)のお話と比べて、カミロさんと姫の互いを求める気持ちが、すごく情熱的かつ官能的なレベルにまで達していたこと。

 『薄明』のふたりには、どちらかと言うともうすでに恋人というよりは新婚夫婦のような、ある種の穏やかな安定感があった。自身の公務のことで少し迷っていたカミロさんが姫に「オマエの忌憚ない意見を聞きたい」と相談する場面には家族のような信頼感が感じられたし、その準備のためにしばし彼が部屋を出ていくときの「では、行ってくる」「いってらっしゃい」みたいなやり取りにいたっては、君たちもう夫婦か!そうだろ!……と。

 そんな感じで『薄明』には、恒常の時の、出会って数日の間に惹かれあったふたりとは違う、一年以上かけてゆっくり築いていった友情や信頼関係の先に生まれた愛情がしっかりと描かれていた。それがすごくよかったし、なるほどこれが限定以降のカミロ主なんだな……と私はそう解釈して満足していた。

 ところが。

 それから1年半後に登場した『摩天楼』王子ストのカミロ主は、ちょっと違っていた。

 いちばんの違いは、姫からカミロさんへ向けた想いの強さ、というか熱さだと思う。これまで姫がカミロさんの良さとか魅力とかに言及する場合は、「誠実さ」「真面目さ」「実直さ」そして「やさしさ」etc…といった、内面に関することがほとんどだった。一応、「整った顔立ち」とか「精悍な容姿」みたいな描写もあるにはあったのだけど、それはあくまでも客観的な誉め言葉として使われている感じで、姫がとりわけそこに惹かれたというニュアンスはそんなに強くなかったと思う。

 しかし摩天楼はそうではない。姫は、ちょっとした瞬間にカミロさんからもたらされる身体的刺激──すなわち濡れ髪の下の容貌の妖艶さや、触れられた手の温度、自分にはない翼という部位の美しさから、声から、彼の「香り」まで……その五感で感じるすべてに強い感銘を受けている。そういう表現が何度も出てくる。

 つまり、それまでの姫のカミロさんへの想いは、あえてものすごく端的に言えば「優しくて誠実で真面目な人柄が大好きで、その上外見も素敵なんだから素晴らしい」という感じだったと思う。けれど摩天楼はそうではない。人間として素晴らしいと思える内面だけでなく、男性としてこの上なく魅力的な外面(そこには容姿や体格や声といったすべてが含まれている)にもとても強く惹かれていて、その両方に起因する「大好き」という感情が簡単には抑えられないところまできている。そんな気がした。

 そうなってしまった以上、もう私にとって『摩天楼』の姫は、彼女を通してカミロさんとの恋愛を疑似体験させてくれる媒介者の枠には収まらない。いまや彼女は、私自身のカミロさんへの想いをそのまま共有する存在なのだ。

 王子ストーリーというものは、(ごく一部の例外を除き)基本的にはハッピーエンドが約束された物語である。もちろん『摩天楼』もそうだった。

 しかし、薄暗い空の下で、降り始めた雨に打たれながらカミロさんを待つ姫……という冒頭のシーンからして、摩天楼の物語には始終、強すぎる愛情がもたらす「切なさ」や「痛み」、もしくは「憂い」のようなものがつきまとっている。互いの想いが通じ合ったからといって、この痛みが消えることはない。だってそれは、好きなものを好きすぎるゆえのものだから。これは、ハッピーエンドだろうがバッドエンドだろうが関係なく、それを好きである限りは決して癒えることのない痛みなのだ。

 そしてこれは姫の側だけではない、カミロさんも同じであることは、お話を読んでいればよくわかる。

 これまで彼がずっと守ってきた、真面目で清廉潔白な王子という「殻」は、もう自分の内面の感情や情熱を支えることに耐えられなくなっている。『摩天楼』王子スト前半のカミロさんは、そのことに気づきはじめた彼だ。今まさにその無垢だった「殻」が壊れようとしている、そのことに伴う痛みも、彼は感じているように思う。幸福な場面であるはずの太陽覚醒の彼の表情がどこか切なげにも見えるのは、そういうことなのかもしれない。

 彼は、これまでの彼ではなくなることによって、新たな幸福へと踏み出したのだ。

 ……そんな二人の物語である『摩天楼に降る涙』王子ストーリーが、私は大好きなのです。

(まだ続く)

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